ブラック企業がどのようにして従業員の勤務時間をごまかしているのか、私の体験談を踏まえて説明させていただきます。
【その1】 そもそもタイムカードがない
そもそもタイムカードや従業員の個人カードがなく、出社した時間・退勤した時間を記録しないのが大前提です。
もしタイムカードや個人カードで出社したときに記録をする方式であれば、出社した時間・退勤した時間を記録することができ、労働時間を把握することが出来ますが、私が勤務していた一部上場企業では、タイムカードも個人カードもありませんでした。
「わざと”無し”にしてるんじゃないの?」
と思ってしまうくらい、今となっては不思議に思うことの1つです。
ただもしもタイムカードがあったとしても、出社したときにタイムカードを従業員に押させなければ、出勤していても出勤していないことに出来ますし、個人カードも同じことでしょう。
会社の規定で「出社すると同時にタイムカード(個人カード)で記録し、退勤時には同様に記録すること」と仮になっていたとしても、現場の管理職(上司)が
「出社してもタイムカードを押すな」
と強制すれば、その従業員は出社していないことになります。
会社のカレンダーで”出勤”となっている日にそんなことをすれば、その従業員は遅刻や欠席扱いになり目立ってしまうため、このような不正が行われるのはだいたいが”休日出勤”のときです。
【その2】 パソコンのオン・オフ時間の操作
最近では全社員に1台ずつパソコンを割り当てられる企業も多いと思いますが、私が勤めていた企業でも従業員に1台ずつパソコンが割り当てられ、パソコンのオン・オフで従業員の出勤時間を管理していました。
また同時に出社時間と退勤時間を会社のオンラインシステムに入力し、全社員の勤怠管理がされていました。
しかしコレには抜け穴がいくつもありまして、はっきり言って現場責任者(店長)のやりたい放題でした。
たとえば出社時間。
会社の規定する出社時間は9:20ですが、店舗の決まりにより9:00から朝礼が始まります。
なので従業員は8:45分くらいに出社し、パソコンの電源を入れずに朝礼の準備をしたり、掃除をしたりしていました。
間違ってパソコンの電源を入れたりすると店長に激怒されました。
9:20分に近づいてくるとようやく電源を入れても怒られなくなります。
もしもその前の時間に、なにか急ぎの用があったりする場合は、個人パソコンとは別に存在していた共用の事務パソコンを使うように言われます。
そのようにすることで、その社員の出社時間は表向き(本部・人事部に対して)9:20に出社していることになっていました。
なので店舗の従業員は全員定時に出社していたことになっていたのです。
では退勤時はどうか。
会社の定時は18時台でした。
その定時になりしばらくすると、店長からパソコンの電源を落とすように指示が出ます。
その後も、もしパソコンを使わないといけないような業務がある場合は、データを共用の事務パソコンに送り、そのパソコンで業務を行わないといけません。
すると実際には残業をしていても、その従業員は会社にいないことになっているわけです。そして表向き(本部・人事部向け)には定時で退勤したことになっているのです。
ところがあまりに定時で帰っているのが頻繁にあると、逆に本部から疑われることになりますので、時々は個人パソコンを付けたまま仕事をさせてもらえ、残業をしていることにするのです。
要するに残業時間の操作の全権限を店長が握っている状態でした。
休日出勤についても触れておきます。
その当時私が勤めていたときは、カレンダー上は週休2日となっていましたが、週に2日休めるのは月初の最初の週だけでした。
世間では当たり前のような週休2日ですが、私にとってはとても貴重な週休2日でした。
1日の休みと2日の休みでは、精神的にも体力的にも全然違います。
月が4週間とすると最初の1週目だけ2日休めて、残りの3週は毎週2日の休みのうち1日は休日出勤となるのです。これが状態化しており、従業員の中では当たり前になっていました。
休日出勤については、会社の規定上残業代が出るのですが、それもパソコンを付けた時間によって決められていきますので、労働している時間分がすべて残業代として反映されるものではありませんでした。
休日も出勤日とほぼ同じ時間に出社し、退勤時間もほぼ出勤日と変わりません。
ですが出勤日と同じように9:20にパソコンを付けると店長に激怒されるのです。そして、退勤の時間ギリギリまでパソコンをつけたりしていると、それも激怒されます。
とにかく休日出勤でも、まるまる一日出勤しているのではなく「休日にちょっと用事があって出てきた」ということにしておきたいわけです。
ただし管理職(会社の規定上の役職)になると残業の縛りがなくなりますので、パソコンをつけていてもあまり怒られなくなりました。
あまり気に留めていませんでしたが、管理職になると残業がある一定時間以上にならないと、残業代が出ないようでした。
私が入社する時、採用担当者(人事担当者)からは、
「出社したらパソコンの電源を入れて、帰るときに電源を切るように」
と教えられてい他にも関わらず、実態としては現場ではその決まりは全然守られていませんでした。
そしてそれは常態化していましたので、会社の規則なんて現場には全く関係なかったのです。
【その3】 セキュリティの鍵を管理職が従業員に貸す
先程の項目でご説明しましたように、役職が管理職のくくりになりますと、残業してもある一定の時間までは報酬がもらえません。
報酬がでないということは、管理職の場合は一定の残業はすでに織り込み済みということなのだと思います。ですからパソコンの電源もそこそこの時間つけていても何も言われませんでした。
そして営業所(店舗)の鍵には、セコムなどのセキュリティのカギが別についていて、セキュリティの解除とロックの時間でその営業所がどれくらいの時間開けていたのかがわかるようになっています。
営業職から管理職に出世すると、そのカギを持つようになりました。
管理職以上しかそのカギ(セキュリティ)を持っていませんので、そのカギを営業職の担当に貸してあげると、その担当者が開けたとしても、管理職が開けたことに出来ますし、営業所を閉めるときにそのセキュリティのカギを使うわけですから、最後に営業所を閉めたのは管理職ということになります。
(会社の決まりを”貸し借り禁止”にしておけばなおさらですね)
ですからその管理職のパソコンの電源を落とすのも一番最後に消すわけです。
もし仮に管理職が先に帰らなければいけない事情があった場合は、パソコンをつけたまま退勤し、最後に営業所を閉める前に管理職のパソコンをオフにするのです。
そして最後にその管理職のセキュリティのカギを使って営業所を閉めれば表向きはコレで完璧です。
強制休日出勤(月初を除く3週)の前日には、翌日一番初めに誰が出社をするのか確認し、一番はじめに出社する担当者に管理職のカギを渡します。
そして管理職のパソコンのパスワードを教えておくなどして、場合によっては管理職のパソコンを起動します。
(出社したけどパソコンを使わない業務をしていたことにすることもよくありました)
担当者がパソコンを使う業務をしたい場合は、共用の事務パソコンで行うのです。
以上のように巧妙に狡猾にパソコンのオン・オフ時間を操作し、営業所のセキュリティの施錠・解錠の時間を操作することで、残業・休日出勤をしまくっているにもかかわらず、そんなに残業をしていなかったことにしていくのです。
なぜ従業員は店長の言われるがままなのか
店長は独裁者
店長になると様々な権限が与えられます。
- 顧客の割り振り
- 担当地域の割り振り
これが営業マンの首根っこを掴むことができる最大の権限です。
「会社の規定に違反しているのだから、毅然とした態度で店長に言うべき」
と思われるかもしれませんが、顧客と担当地域の割り振りの権限を持っている店長は独裁者になれるのです。
店長に嫌われると”おいしい案件”は絶対にもらえなくなります。
逆に店長の言いなりになって、店長に好かれていれば、数字になりそうな案件、みんながやりたがる担当地域をさせてもらうことが出来ますが、店長に嫌われると担当地域を奪われたり、ちょっといい案件が出てきたりすると、担当者を変えられてしまったりします。
「〇〇くんには無理だから〇〇くんにやってもらう」
と理由付けなどいくらでもできるからです。
なので、営業所の残業時間・勤怠管理は店長がやりたい放題できるわけです。
残業時間・勤怠管理は本部・人事部に目をつけられると、店長の評価が一気に下がりますので、営業マンの弱みに付け込んでコントロールをするのです。
36(さぶろく)協定はまったく意味無し
「36協定」を聞かれたことはありますでしょうか。
36協定とは、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を、会社から従業員にお願いするために、事前に結ばなければならない労使協定のことです。
厚生労働省によれば、
■労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています。これを「法定労働時間」といいます。
■法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
■36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上
限」などを決めなければなりません。
上記のように定められていて、私は店長の言われるがまま渡された書式にサインをしたことがあります。
この書類を労働基準監督署に提出することで、時間外労働をすることを認めたことになっていました。
その書類へのサインを拒むとどうなるか、ここまで読んでいただいた方はおわかりですよね。
営業担当者も食べていくため、家族を養っていくために独裁者の言いなりにならなければやっていけないのです。
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