ブラック企業でのエピソード
営業でツラかったエピソード
当時はコンプライアンスもそこまで厳しい時代ではありませんでしたので、一度来店されたお客さんや、問い合わせのあったお客さんの家にいきなり行くということは日常茶飯事でした。
特に、物件案内をして、少しでも気に入った様子が見られると、訪問のアポイントを取って夜訪したり、アポイントが取れなかったときは、資料を無理やり準備して、いきなり訪問などもよくやっていました。
あるお客様が私の案内した物件を内見し、気に入った様子でした。
上司にその様子を報告すると、
「訪問してツメて来い」
と言います。
私はお客様に連絡を入れて、訪問のアポイントを取ろうとしますが、アポイントが取れませんでした。
すると上司は、
「資料持って”近くまで来ましたんで”って言うて訪問してこい」
と言います。
時間はすでに夜も遅くなっていて22時は回っていたと思います。
私は上司の指示に従い、お客様のお宅へ行き訪問しました。
そのお客様はご主人と離婚された母子家庭の家でした。
なのでいくらまだ社会人になって間もないとはいえ、男性の営業マンが押しかけてくるのは、きっと恐怖だったと思います。
お客様の家についたのは23時位だったでしょうか。
ちょっと想像してみてください。30代の母子家庭の家に、夜23時に男性の営業マンが「近くまで来ました」って訪問してくるのです。
普通考えれば、絶対に嫌ですよね。。。
警察呼ばれてもおかしくないでしょう。
でもそのお客様は、快くというのか仕方なくというのか、家の中に上げてくれました。
そのとき何を話したのか全然覚えていませんが、前に見て気に入ったであろう物件を、買いませんかと私は進めていたのだと思います。
でも結局は買わないということで断られました。
私はお客様に電話をしてアポイントが取れなかった段階で、
「このお客様は買わないだろう」
と内心思っていたので、訪問をして断られることは容易に想像できていました。
ですから断られても致し方ないと思っていたのです。
そして私は営業車に戻り、営業所に向かいました。本当はお客様の家を出てすぐ、上司に報告の電話をしないといけないのですが、あまりに遅い時間でしたし、訪問してダメだったという結論が出たのですから「ダメでした」の報告でその日は終わると思っていたのです。
ていうか「これで終わりにしたい」という気持ちでした。
なので営業車で高速道路に乗ってから、上司に報告の電話を入れました。
「ダメでした」
と報告をすると、
「そうか。やるべきことは全部やれたと思うか。」
「はい、やったと思います。」
「そうか。わかった・・・そしたら次の(高速の)出口で出てもう一回行ってこい。」
(えっ・・・)
「えっ、でももう買わないと言ってます・・・」
「ええから行け!」
というようなやり取りがあり、私は言われたとおりに、次の出口で高速を降り、再度反対向きの高速道路に乗って、お客様のお宅へ向かいました。
私はあまりに辛くて、涙が出てきました。
あまりに辛すぎて、折返しの高速道路の運転中、彼女に電話をしました。
「ツラい・・・(涙)」
深夜の2時頃でしたが、彼女は「頑張って」と励ましてくれました。
そしてお客様宅に到着し、お客様の住んでいるマンションのオートロックのインターホンを恐る恐る鳴らしました。
「出ないでほしい」と思っていましたが、
「はい」
「〇〇不動産の〇〇です。ほんとに遅くにすみません。あとほんのひと言だけでいいので、ほんの少しのお時間をいただけませんか。」
「・・・・・・」
しばらく沈黙がありましたが、
「お化粧を落としてしまったので、ちょっとだけ待ってもらえますか」
「はい。お願いします。」
そういうやり取りがあって、お客様はマンションのエントランスまで降りてきてくれました。
私は上司にもう一度行ってこいと言われたことを伝え(これ以上訪問に来る言い訳を言えなかったので、そのまま言った)お客様に、
「本当にこの物件は買わないんですね?」
と確認をしました。わかっていたことではあるんですが。
お客様は頷いたので、私は頭を下げてお礼を言って、その場を離れました。
そして上司に報告の電話を入れます。
(頼むから「もう一回行け」って言わんといてくれ)
そう思いながら、上司に電話をしました。
「そうか。わかった。じゃあ気をつけて帰って来い。」
そう上司に言われて、ほっと胸をなでおろしたことを今でも覚えています。
営業所に着いたのは3時前くらいだったと思います。
社員はほぼ全員帰っていましたが、同じ部署の同僚と上司はみんな待ってくれていました。
そしてみんなが笑顔で迎えてくれました。
なぜ断られたにも関わらず、もう一度「行け」と言ったのか、その上司の真意はわかりませんが、とにかく、もうこれ以上やるべきことは絶対にないというところまでやって帰ってきた私に、同じ営業マンとして気持ちがわかって、みんな待っていて迎えてくれたのだと思います。
いまでもどれだけ考えても、その上司の真意は本当にわかりません。
(もしかしてですが、上司への報告をする前に高速道路に乗っていたのが気に食わなかったのかもしれません。書きながら思いました。)
ただただツラかった。そのことだけを覚えています。
エピソードの続き
実は先程のエピソードには続きがあります。
そのツラかった出来事の約1ヶ月後くらいのことです。
母子家庭のお客様から電話がありました。
「〇〇マンションを見たい」
私はあんな夜中に押しかけ訪問をしましたので、きっとこれ以上そのお客様とコンタクトを取ることなどできないと思っていましたが、なんとお客様の方から物件を見たいを言ってくれたのです。
しかもその物件は他社で売り出していた物件でした。
結局、そのお客様はそのマンションをトントン拍子で購入してくれました。
「しつこくて押しの強い営業マン」だと思われていたと思ったのですが、とても救われた気がしました。
あのツラかった出来事が、こんな形で報われるなんて思ってもみませんでした。
夜中にいきなり訪問してくる営業マンの私は、そのお客様にどんなふうに写っていたんでしょうか・・・。
さすがに嫌いな営業マンからマンションを買おうとは思わないと思いますので、良くは思ってくれていたのだと思いますが。。。
今だったら聞けると思いますが、その当時の私はまだまだ世間知らずで、そんなことを聞く勇気もありませんでしたので、現在も謎のままです。
コンプラ無視のおとりチラシ
マンションにお住まいの方であれば、一度は目にしたことがあるかもしれませんが、
「〇〇マンション限定でお客様がおられます」
最近でこそ、この謳い文句は見かけることは少なくなりましたが、私がぺーぺーで働いていたときは、先輩が上記のような謳い文句のチラシを作っては、分譲マンションにポスティングをし、マンションの入居者からの問い合わせを取っていました。
現在はインターネットで情報が簡単に入手できるので、不動産屋が作文してつくったウソのチラシだということは、ちょっと調べればすぐに分かると思いますが、まだまだインターネットが普及していなかった頃は、この手のチラシを作成して、マンションにポスティングするだけで何件も電話がかかってきたものです。
で実際にもしお客様から問い合わせがあったら、どういうふうに対応していくかというと、常に架空のお客様が存在する前提で問い合わせに対応していきます。
「なぜ〇〇マンション限定なのか」
↓↓↓↓↓
「学校区条件合致、築年数が条件以内、実家が近いから」
というようにあたかもそのマンションであれば、そのお客様がぴったりで、もしも売却物件があれば高確率で成約する可能性が高いと思わせます。
さらにチラシには「急いで探している」という殺し文句(?)も書いてありますので、
「なぜ急いでいるのか」
↓↓↓↓↓
「学校の入学に合わせたい」
「夏休み中に引っ越したい」
「転職前に買っておきたい」
などなど色んな理由を考え出し、問い合わせのあったお客様テンションを上げていきます。
マンションを売ろうかどうか悩んでいる人や、すでに一戸建てを購入していて、その引き渡しまでに売却を済ませないといけない人なんかは、この殺し文句でイチコロです。
するととりあえず「部屋を見たい」と言って面談のアポイントを取りつけます。
営業マンは問い合わせのあったお客様のお宅を訪問し、査定と言って室内を確認していきます。
そして物件としてお客様に紹介するには「媒介契約を締結していただかないといけません」と言って、物件を売出すための”媒介契約”を締結するように進めていきます。
そこで営業マンはこう言います。
「限定のお客様にはもちろんすぐにご紹介させていただきますが、条件の近い別のお客様にもご紹介してもいいでしょうか」
するとたいていの売主さんは承諾をしてくれます。
その際に「複数のお客様がいたほうが、売主にとっては交渉の際に有利になりますので」なんて言ったりして、限定のお客様以外に営業活動ができるように仕向けていきます。
とりあえず媒介契約が締結できましたら、事務所に戻って、今度はそのマンションのチラシを作成していき「新規物件情報」などと言う謳い文句もつけて、近隣のマンションなどにポスティングをしていくのです(もちろんそれも売主に承諾を得ておいてではありますが)。
それでうまく購入希望者が現れれば、晴れて売買契約成立となりますし、成立しなくてもお客様を一組でもご紹介できれば、売主への顔が立ちます。
それでなんやかんやと活動をしていてしばらく日にちが経った頃に、
「すみません。限定のお客様が事情があって購入を見合わせるそうです。」
と言って、限定のお客様の存在を消していきます。
こんなふうにやっていくと、売却物件をひたすら集めることができるのです。
私はこの方法を実際に試したとき結果が出たので、会社の周辺のありとあらゆるマンション用に、限定チラシをマンションごとに作成し、徹夜して朝までポスティングしまくったことがあります。
すると翌日から電話反響がかかりまくりです。
たくさんの反響を取れるのはいいのですが、万が一、限定で探しているお客様の情報が交錯して、ウソが見破られてしまうといけないので、すべてのマンションに同じ背景のお客様を創作しました。
例えば同じ学校区で探している、社内融資の利用を考えている、というような感じでです。マンションごとに学区は覚えておき、お客様との会話でも「同じ学区で」とは言わずに「〇〇小学校の校区で」と言葉には気をつけたものです。
でも当初は、こんなウソのチラシを作成してポスティングしまくっていいのだろうか。。。と罪悪感があり、上司に「反響があったとき実際にお客様はいないのにどうするのか」と質問したりしていました。
しかし実際に先輩が架空のお客様の存在を最後までお客様に信じさせ、売物件に仕立て上げていくのを見て「すごい」と思ったのは事実です。実際に自分でもやってみて、物件化していき実際に売れたりすると「終わりよければすべてよし」的な発想になっていったのも事実です。
「結果的に売却できてお客様は喜ぶはず」
「潜在的な希望を具体化してあげた」
などとその当時の上司も、私にそのように指導していましたので、自分の感覚も麻痺して正常ではなかったと思います。
でも当時の私は、それが正義だと信じて、ひたすらチラシをポスティングしまくっていたのです。
やり方はどうであれ、数字が上がれば(売上が上がれば)会社は評価をしてくれていました。現代では考えられないですね。(それでも時々まだそんなチラシをみかけることもありますが)
今思えば「なんというブラック企業」と思いますが、井の中の蛙というのか、その渦の中にいると気づかなかったのです。
ブラック企業でも自分を高める努力をした
とりあえずひたすら頑張っていたつもりではありましたが、営業成績はというとそこまでいい成績ではなく、同期は出世していき後輩には抜かれ、思い通りに行かないもどかしい時期を過ごしていました。
そんなさなかに部署異動があり、同期が同じ部署で働くことになりました。
自分の中では、
「あいつはたまたまいい部署にいたから成績がよかったんだ」
「自分は苦しい現場を任されていたから自分のほうが成長しているはず」
「同じ条件なら負けないと思う」
と根拠の薄い自負心を持っていましたので、
「おれの実力を見せつけるチャンス」
と思っていました。
で実際に同じ現場で同じ仕事をすることになり、よくも悪くも結果が出てくる時期になってくると、同期との差が歴然と開いてきました。
もちろん私のほうが成績が悪い方です。
「何がダメなんだろう」
「たまたまいいお客様に当たったのか」
もんもんとした日々が続いていましたが、あるとき同期の接客を見て「完全に実力で負けている」と思った出来事がありました。
それは新築マンションの販売の現場での出来事でしたが、同期が接客していたお客様が検討していた部屋が先に申し込みが入ってしまったのです。
そのマンションは抽選でしたので、同じ部屋に申し込みをしてもらうこともできます。
しかし販売業者としては、なるべく希望の部屋は重ならないように「抽選1倍」がたくさんある方が、完売の道が早くなっていきます。
同期はそこで「予算を上げてもらって他の部屋を提案する」と言って、もう少し金額が上の部屋をお客様に薦めました。
それでようやくその部屋に申し込もうかとお客様が決断しかけたときに、またその部屋に申込が先に入ってしまったのです。
すると同期は苦しそうな表情を浮かべつつも「もう一つ上の予算の部屋になんとか薦めてみます」と言って、最終的にはその部屋で申込を取ってきたのです。
私はそのやり取りを見て「自分だったら諦めている」と思いました。
その時初めて「同期と実力で完全に負けている」と自分の力不足を認めたのです。
どんな話法を使えば、そのお客様は予算をあげれるのか。
どんな話法を使えば、お客様に喜んで決断してもらえるのか。
いろんなことが疑問で、どうにかしてそのやり方を「自分も知りたい」「自分もできるようになりたい」と思ったのです。
本当はその同期とはあまり仲良くしておらず、自分から少し距離を取っていたのですが、どうしてもその秘密を知りたかったので、ある日、同期を人が少ないところに呼び出しました。
「おれは自分ができる営業マンになりたい、売れる営業マンになりたい。同期にこんなこと頼むのはものすごく恥ずかしいけど、おれに営業のノウハウを教えてもらえないか。全部素直に聞き入れるつもりだから。」
と言って頭を下げてお願いをしました。
同期はかなりビックリしていましたが、私が「素直にすべてを受け入れる」と言ったときの表情などから「私の本気」を感じ取ってくれたのだと思います。
そして、
それからしばらくは、全部のお客様の内容を包み隠さず、いいことも悪いことも全部その同期に説明をしました。
(こんなことを言ったら何をしてるんだと思われないか、そんな事も知らないのかと言われないか。)
ともしも洗いざらい話してしまったら、自分のミスや実力の無さを露呈してしまうのではないかという”自己防衛”的なものは全て捨て、ありのままのお客様の状況、ありのままの接客内容をすべて同期に話しました。
「こういうお客様の状態だけど、〇〇くんならこのあとどういうアプローチをするのですか」
というように質問し、教えてもらったことをそのまま理解できるよう、何度も質問を繰り返し教えてもらいました。
そしてそのとおりに自分があらためてお客様にアプローチした結果、いままでくすぶっていたお客様が何件も決まりはじめ、しばらく経ったときには営業成績がその現場でトップになったのです。
自分でもかなりびっくりしました。
もし自分が今まで接触したお客様を同期が応対していたのならば、自分が出せなかった結果を同期ならば出せるのだということ、応対する営業マンによってお客様が出す結論がぜんぜん違う、ということを身にしみてわかったとともに、
「変なプライドは不要。結果が出れば評価される。」
ということも体感できたのです。
私の営業マン人生での大きな転換期となりました。
ターゲットになると鬱になり会社を辞めさせられる
私は「ターゲット」という表現をしていましたが、あるパワハラ上司がその会社には存在し、そのパワハラ上司に目をつけられると、何をやっても怒られ罵倒されるということがありました。
その会社では毎日朝礼があり、一日の予定(お客様との約束、約束がなければ一日何をするのか)を発表しなければなりません。
そしてその発表の中で、上司が指導をすることがあれば指導する、というようなやり取りで朝礼は進んでいきます。
ところがです。
もしそのパワハラ上司のターゲットになると、一日の予定を発表したとき、どんなまともな内容であっても”アラ”を探し、その担当者を大声で罵倒し、人間性を否定していくのです。
私もターゲットになった時期がありますが(ターゲットは不定期に変わっていきます)その上司の機嫌が悪い朝は必ずといっていいほど罵倒されます。
「なんで?」から始まり、最終的には、
「給料ドロボーか!!」
「後輩にもう抜かれてるぞ!!」
「辞めてしまえ!!」
「いつ辞めるんだ!!」
と最終的にはボコボコにされます。
ちょっとでも言い訳じみたことを言ったりすると、更に火に油を注ぐことになるので、なるべく「すみません」しか言わないようにしているのですが「それでどうするんだ!!」とすみませんの逃げも通用しなくなってきたりします。
新卒でもお構いなしです。新卒でまだ右も左もわからない社員も罵倒し、見るからに精神的に追いやられていくのがわかりますが何もできません。
最終的には退職に追いやられていき、それで辞めていった人間を何人か見ています。
でそのパワハラ上司は、社長には「彼はうちの会社には向いていませんでした」と報告をするのです。
私も追い詰められて辞めそうになったこと(辞めさせられそうになったこと)が何回もありますが、一度逃亡した身ですので(波乱万丈の転職&独立1(大学卒業~入社~地獄の新入社員研修)参照)なんとか凌いで、自分から他の人にターゲットが移るまで頑張りました。
自分の身を守るため仕方のなかったことではありますが、私の後にターゲットになった人には同情はするものの、何もできませんでした。
他の社員のスキャンダル
勤務して数年が経った頃、他の社員というか、同期を含め幹部を含む先輩がたのスキャンダルを耳にすることになります。
例えば社員の〇〇が後輩の女の子と密かに付き合っていて、しかも二股をしていたので、同じ部屋に二人の女性社員が鉢合わせし、男性社員の修羅場があったという話であったり。
はたまた私が尊敬していた幹部女性が実は社長の女で、その幹部女性がほかの男性社員の〇〇と寝たとか、誰それさんが突然坊主頭になったのは、社長の女に手を出したのが理由だったとか・・・
もしかしたら中小企業ではあるあるのネタなのかもしれませんが、当時の私にはあまりにも意味不明で衝撃的なことでした。
しかし私は周りの環境に左右されず、
「自分が一人前の社会人になるために、今は必死で働くのだ」
という気持ちが強かったので、そういうスキャンダラスな行為をした人たちには軽蔑の気持ちを持ちつつも、
「おれには関係ない」
と思って誰にも話さず、知らないふりをして過ごしていました。
会社を無断欠勤し逃亡したことを非難していた社員が、実は陰でそんなスキャンダラスなことをしていたことを知って、
(人のこと言えないよな)
とは思っていましたが。
まあでもとにかく、そういう社員同士が密な会社であったので、私と妻は付き合い結婚することにもなりましたし、同様にほかの社員同士が恋に落ちても、私はごく自然なことだと思っていました。
(不倫や二股は別です)
そういう事実を知って会社への愛着は無くなり、会社とは単に「自分が社会人としての腕を磨くためだけの場所」として割り切ったのもこの頃です。
入社して4~5年目くらいだったと思いますが、それから辞めるまでそのスタンスは変わりませんでした。
転機~思い切って転職する
外資系保険会社からの電話
ある時仕事の最中に、個人名で私あてに電話がかかってきました。
個人名なのでお客様だと思って電話に出ましたら、その人は外資系の保険会社の採用担当で、
「ヘッドハンティングしたい」
と言ってきました。
「外資系?」
「ヘッドハンティング?」
映画とかドラマでは聞いたことはありますが、実際に現実にそんな話を聞くのは初めてでした。
「あなたの活躍を噂で聞きましたので」
などというような聞こえのいい言葉を使って誘ってきましたので、私は少々浮かれてしまいました。
今まで会社でそこそこの成績を出していたものの、営業成績トップというところまではいっていませんでしたので、自分が社会的に評価されてしかも「活躍の噂を聞いてヘッドハンティング」されるなんて、今までの努力が報われたのかも!とちょっとうれしくなりました。
(後でわかりますが、電話をした人みんなに言っているみたいでした・・・)
とにかく今では転職サイトに登録すれば「スカウトが来る」こともあると思いますが、まだまだインターネットが普及していなかったその時代でしたので、ウソでも「ヘッドハンティングしたい」などと言われると舞い上がってしまうと思います。
外資系保険会社のスカウトマンとの面談
とりあえずは今の仕事はキツイし、不動産業以外のことにも興味がないわけでもないので、話だけでも聞いてみようと思いまして、そのスカウトマンと会うことにしました。
そのスカウトマンはとりあえず都心のホテルでコーヒーを飲みながら、今の仕事はどうだとか、夢はあるのかとか、保険の仕事には興味がないかとか、はっきりは覚えていませんが「一度面接を受けてみないか」と言ってきました。
(あれ?ヘッドハンティングなのに面接する?採用じゃないのか。)
という疑問がもたげてきましたが、とりあえず別の仕事に興味があるので、面接を受けてみることにしました。
(まるでやってることはおとりチラシと同じですね)
日をあらためて面接に行きますと、まず少し話があってビデオを見せられました。
ビデオの内容というのは、保険のセールスマンが契約を重ね、数字を上げて、会社から海外で行なう表彰式に呼ばれ、家族全員を海外旅行に連れて行って、旅行先で表彰を受けるというものでした。
しかも表彰を受けるときに壇上には家族も一緒に上がることができて、家族全員が表彰されるお父さんをすぐそばでみているのです。
そのお父さんを自分と置き換えてビデオを見続けていると、最後には、今まで必死で仕事に打ち込んできたけれど、自分が頑張って表彰されるところを家族に見せることができるのであれば、やってみたい!と思っていました。
聞くところによると、保険会社の表彰というのは順位ではなく、一定の成績以上をクリアーすれば、海外に連れて行ってもらえるとのこと。
それまで勤めていた会社は「営業成績一位」だけが表彰される会社でしたので、誰それよりも頑張って誰それよりも売上を上げた人が表彰されるものだったのです。
ですから単純に一定の成績以上を上げれば表彰されるというのは、私にとってはすごく魅力的なものだったのです。
ビデオを見終わって、採用責任者の話を聞いた後、その後の面接に進むのかどうかの意思表示を聞かれました。
私は「よろしくお願いします」と次のステップに進めることにしました。
外資系保険会社での最終面接で不採用
そして後日最終面接となりましたが、最終面接は3人の面接官がいました。
3人からまるで総攻撃のようにいろんな質問が来ます。
いまでもはっきりと覚えているのは「いま在籍している会社で自信を持ってやり遂げたことは?」という質問があり、私は「チラシをポスティングしまくって売却物件を集めまくったこと」を話しました。
そのほかの話はあまり覚えていませんが、ものすごい質問攻めで汗をものすごくかいた記憶があります。
結局、面接結果は「採用せず」となりましたが、なぜ採用してくれなかったのか、それを最後に話してくれました。
(もうすでにヘッドハンティングでも何でもなくなっていて”通常の転職の面接”である)
私がいまの職場で頑張ったことを聞かれたとき、チラシのポスティングを徹夜でやったことを話したのですが、そのときに作文チラシのことを喋ってしまったのです。
最終的に顧客満足を得られたとしても「ウソは良くない」と言われ、コンプライアンスに厳しくない人物だと判断されたのです。
その時は半分納得して半分は納得していませんでした。というのも不動産業界ではもうほぼ当たり前になっていて、超大手のメガ不動産業者もやっている手法でしたから「今さら何を」と思っていました。
まあでも業界の外の人達には理解できないことなのか、もうほかの業種の人にはこの話はすべきではないなと思いました。
でも今この記事を書きながら思いましたが、
「ヘッドハンティング」
という聞こえのいい言葉を使って、巧みに私を誘い、そして面接までさせて社員を募集しているあなた方(保険会社)もまったく一緒のことをやっていますね。(「コンプライアンス遵守」とえらそうにいってた割に実は同じ穴のムジナですね)
まあとにかくその外資系保険会社には採用されませんでした。
しかし私は「海外に家族を連れて行って表彰してもらう」のを一度は夢見てしまい、もしもほかの保険会社でも同様なことをしてもらえるのだったらチャレンジしてみたい、と思ったのです。
ほかの外資系保険会社へ就職
その後どういうツテだったのかもう忘れてしまいましたが、別の外資系の保険会社の面接を受けることにしました。(今度は作文チラシのことは喋らないでおこう)と肝に銘じて。
そして面接は合格し、晴れて私は転職することになったのです。
人生で初めての転職。
30再半ばにして新たな夢を描き、希望に満ちた状態で私は新しいステージへと進んでいきました。
つづく
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